外は快晴。今日は休日。
そんな絶好のお出かけ日和である日に響き渡ったのは、烈しい怒鳴り声だった。
とある1日
「ええい! 貴様それでも片付けているつもりか!」
「なんだと!? こんなに懸命に片付けているだろう!」
また始まった。
ため息を付いて、自分が担当するエリアを急いで片付けようと手を動かす。
ここは、とあるマンションの一室。
家賃の割に広いのがウリということで、一世帯が住むのに適した部屋数があった。
ついでにペット可、改装やその他諸々も自由という、なんとも至れり尽くせりな住宅である。
そこに今、政宗、兼続、そして柚菜の3人が共同生活をしている。
「どこをどう見たらそれが片付けていると言える!」
ビシッ、と効果音が付きそうなほど勢いよく指差したのは、兼続の周り。
そこには兼続を中心に見事放射状に広がった本の山が。
まさに足の踏み場もない。
「これは本棚に入れる前に仕分けをしようと並べていたのだ!」
大体人を指差すなど不義な…
ぷちぷちと文句を連ねる兼続だが、そうは言ってもこれではどこからどこまでを仕分けし終わっているのか、どんな仕分け方なのかもさっぱりだ。
政宗が怒りで震えているのがわかる。
きれい好きな政宗は、こと掃除となると鬼のように厳しい。
本当は全て自分でやりたくて仕方ないのだろう。休日でなくても頻繁に掃除をするくらいだ。
対して兼続は、しっかりした態度とは裏腹に片付けが出来ない質である。
自分が使いやすいように周りにものを重ねていくために、彼の机周りはゴミの山のよう。
そもそも共同生活を始めたきっかけは、あまりに家事が出来ない兼続を見かねた政宗の提案だった。
曰わく「どうせ世話をすることになるのだから、一緒に住む方が効率が良い」らしい。
流石にこの二人だけでは心配だった柚菜も加わり、現在三人で暮らしているのだった。
「これでは夕飯も作れん!わしが片付ける!」
「なっ、何をする!私の本だぞ!」
「片付けられもせんくせに生意気なことを言うでないわ!」
ここの壁はそれほど薄くはないはずだが、それでも隣に聞こえているのではと柚菜は思う。
それも今更なので何も言わないが……
壁の向こうのことよりも、まずはこっちを気にするのが先決と、片付け終わった場所を確認してから二人に近付いた。
「政宗。私が手伝うから、他のとこ掃除してて」
「何? わしがやった方が早いじゃろうが!」
「喧嘩してたら終わるものも終わらないでしょ! ほら! さっさと行く!」
シッシッと手を打ち振ってみせると、政宗は舌打ちをしつつ踵を返した。
政宗は恐らく、半ば自分専用となっているキッチンや風呂などを掃除し、柚菜が片付けたところを点検してから戻ってくるはずだ。
それまでに片付けなければ。
「兼続、急いで片付けないと。多分政宗のことだから全部捨てられるよ」
それは困る!と叫び、兼続は本へと向き直った。
―――――
「疲れたー」
机に突っ伏して柚菜は呻いた。
昼から掃除し始めて早数時間。
すでに太陽は随分西に傾き、そろそろ夕飯時だ。
例に漏れず、ここにも良い匂いが漂っている。
「それにしても兼続は注文多すぎだよー」
斜向かいに座る疲労の元凶をじとりと見詰めると、当人は苦笑してすまぬと言った。
兼続が仕分けしたものを柚菜が順番に本棚へ入れていたのだが、そこの並びが逆だの大きさが違っても背表紙は揃えるものだのと、仕分けながら指示を飛ばしてくる。
相変わらず変なところで几帳面だ。
まあ後で使いやすいようにしたいのだろうけど。
「ほれ、出来たぞ」
そんな声がして、政宗がお盆にのせた料理を両手に運んでくる。
深緑のシンプルなエプロンを付けた政宗にも最近やっと慣れてきたな、と柚菜は思った。
最初の頃は、あまりのギャップに大爆笑したものだ。言わずもがなその度に殴られるハメになっていたけれど。
情けない思い出を回想している内に、目の前に美味しそうな料理が並んでいた。
メインは柚菜の好物のひとつ、グラタン。今日はほうれん草が入っているようだ。その他に海藻サラダなどなど、五品目ほどがずらり。
それにしても相変わらず一食の栄養バランスは完璧である。とても独学の知識とは思えない。
「美味しそうー。流石政宗。わー パチパチ」
「気の無さそうな賞賛恐れ入る」
拍手まで口で言ってのけた柚菜を少し睨むようにして、政宗は言った。
その拗ねたような態度に口元を弛ませてしまう。
可愛いなあ、もう。
「ごめんごめん。政宗の料理は天下一品だっていつも思ってるよ」
「ふん、どうだかな」
「折角柚菜の賞賛が得られたのだから素直に受けろ政宗!不義だぞ!」
「何でも不義と言えば済むと思うでないわー!」
また始まってしまった。まあ発端は自分なのだが。
むきになる二人は見てて面白いし可愛いけど、如何せん……
「お腹空いた」
ぽつりと零して、不服そうな顔をして見せた。すると二人は言い争いを止めてこちらを見る。
その息がぴったりで、思わず吹き出してしまった。
毒気を抜かれたらしい二人の唖然とした顔。それを見て更に笑いが込み上げる。
何が可笑しいのだ!
同時に言われたことばも、笑いの種にしかならない。
――本当は仲良しなくせに
それは思っても言うつもりはないが。
笑いの余韻で目を潤ませ、柚菜は言った。
「いただきます!」
今日も賑やかな夜は更けてゆく。
了。
―――――
俺設定兼続のお片付け出来なさ加減は異常ww
まあ、半分くらい私のことですがね!
机周りに適当に本とか重ねるし、仕分けとかして無駄に揃えたがるしなw
あと夢主ちゃんが政宗と兼続を可愛いと思っちゃってるのは、もちろん私が可愛い可愛いと思っているからです、ええ。
意地の張り合いが愛しいよ…
まあ基本設定はこんな感じで
政宗
主夫的な存在。家事の大半を担当。特に掃除の時は鬼のようになる。
キッチンは政宗のテリトリー。
兼続
家事が一切できないダメな子。しかし積極的に家事をしようとするため、政宗にいつも怒られている(正論なので反論できない
夢主(柚菜)
同棲メンバーの紅一点。家事への参加はお手伝い程度。主に二人の喧嘩の歯止め役である。
この設定でまた色々書きたいなー
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